誰にでもある話。

珍しくはない、誰にでもある話を、作ってはぼやいています。

青春日記。

 僕は、極度の寂しがり屋だ。

 

 

 僕は毎日とんでもなく早起きをしては、家を飛び出している。友達と沢山喋れるからだ。毎朝早くに学校に行っては、友達に会うことを楽しみにしている。友達とたくさん話して沢山笑い合える時間が本当に好きだ。本当に楽しい。くだらない話をして、おかしいくらい笑って、おかしいくらい地面にのたうち回る。あの時間は、私の心は本当に満たされる。孤独なんて、これっぽっちも感じない。とても素敵な時間だ。

 

 

 だから、僕は授業の時間が嫌いだった。友達と話せない。距離が遠い。決まった席に座らなきゃいけない。それがとてもつまらなく感じて、とても孤独で、夏でもいつでも、なんだか寒いような心地がした。授業中は、寒くて寒くて耐えられない。でも、これが終われば大好き大好きな10分間が待ってる。友達と沢山話せる。その時が楽しみだった。だから僕はいつも、その後の10分間の楽しみのために、じっと冷たい椅子と机に張り付いていた。

 

 

 4時間目なんて最高だ。だって、その後長い長い昼休みが待ってるから。4時間目は、特に頑張って机と椅子に張り付いて居た。ほかの時間よりも、冷たく感じた。でも、昼休みに沢山沢山話せば、そのエネルギーで5,6時間目は乗り切れる気がした。だからいつも、昼休みのために4時間目を頑張っていた。4時間目が終わった瞬間は、それはそれは嬉しい。椅子が壊れるほどに勢いよく立ち上がる。先生にも、後ろにいるやつにも怒られてしまった。それを笑ってみてくれるみんなが好きだ。僕はこんな瞬間でさえ、この空間が、クラスが大好きだなと実感できる。

 

 

 今日は、僕が嫌いなトマトの押しつけあいをした。あいつが僕の弁当箱にトマトを投げ入れたのが始まりだった。僕が少し嫌な顔をして、僕の弁当箱に元々入っていたトマトを隣のやつの弁当箱に入れた。そいつがそれをしぶしぶ食ったから、もうひとつのトマトもやろうとした。そいつは「2個も要らねえよ!」なんて言いながら僕の箸をぐいっと押した。「おいやめろって!!」と笑いながら僕はそのトマトを他のやつに渡そうとした。みんな嫌がっていた。トマトがみんな嫌いだったらしい。面白くなって僕はみんなに向けてトマトを向けた。みんな虫を見たようにそれを避ける。それが波みたいで面白くて、僕はどんどんその波を立てた。その勢いで、僕はトマトを落としてしまった。とても丸くて赤くてかわいらしいトマトは、箸をずり落ちて地面にころがっていった。急にあたりが静まる。みんなトマトに夢中だ。トマトが転がる様子を皆で黙って眺めては、トマトが止まり、やがて動かなくなると、僕達は目を見合わせ、大笑いする。何が面白いのか分からない。だけど、とんでもなく面白かった。みんなが黙ってトマトを見送って、目を合わせて、大笑いするタイミングもバッチリだった。よりいっそう面白くなって、腹が割れるほどに大笑いした。食事どころじゃなくなってしまった。くだらない。トマトふたつでこんなに笑えるこの空間が本当に好きだ。幸せだ。

 

 

 今日もふたつのトマトと僕の友達のおかげで、温まるどころか暑いくらいになった。だから、5,6時間目はまぁまぁイケた。いや、寒いには変わりなかったし、相変わらず机も椅子も冷たいままだったし、椅子はがたついたままだった。でも、僕は帰り道が楽しみだった。みんなとまたワイワイ騒ぎながら帰れるからだ。

 

 ふと、帰りのことを考えると急に寒さが増した。だって、帰り道はみんなで手を振って、別の道へと進んでいくから。僕はその瞬間が、とてつもなく怖かった。みんなと手を振ると、一気に孤独が押し寄せてくる。僕から笑顔が消える。それが怖い。ひたすら怖かった。その怖さを思うと、僕は帰りたくなくなった。みんなで、この場所に残っていたいと思った。いつまでもこの場所にいたいと思った。だから僕は思わず、がたついた椅子からまた、立ち上がってしまった。みんなの視線が集まる。当たり前だ、授業中なんだから。6時間目の半分くらいを過ぎたあたりだった。また、みんなが驚いた顔をしては、クスッと笑った。そして、クラスは大笑いに包まれた。僕はその瞬間、我に返った。僕は、また目立ったことをしてしまった。恥ずかしさと、みんなが笑ってくれた嬉しさで思わず縮こまる。僕も、笑っていた。なんだか心が温まった気がしたので、改めて冷たい椅子に座り直して、残り半分の時間を過ごした。その半分の時間は、それは酷く長く感じた。だけど、いつもよりは短かったかもしれない。

 

 

 授業が無事終わり、みんなでいつも通り伸びをしては駄弁って、笑っていた。先生が来て帰りの会を始めるギリギリまで、僕達はいつも騒いでいた。先生が来た瞬間に自分の席にもどるあの時間さえも楽しいからだ。でも僕はやっぱり、帰りの時間が来るのが怖かった。だから少し、口走ってみた。

 

「今日は少しだけ、駄弁って帰らない?」

 

「お前それ、毎日言ってねえか?」

「明日はテストだろうが、今日くらい早く帰ろーぜw」

「また明日、沢山話そ?」

 

「…うん!また明日、たくさん話そう!」

 

そう僕が言うと、彼らは僕の肩に腕を思いっきり回してきた。

みんなで笑い合いながら、校門を出た。

 

 僕はこの瞬間も、大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 また、寝てしまっていたらしい。

 

 そういえば、僕はまたここに来ていた。今はもう廃墟になってしまった、僕の中学校。

 

 みんな僕の方を見ては、指さして、沢山、沢山笑ってた、僕の中学時代が浮かぶ。そんなはずじゃなかったのに。僕の理想の学校は、友達と、一緒に笑って過ごしてるはずだったのに。

 

 

 僕は笑ってなかった。

 

 

 冷たい、冷たい机の上には、僕の傷だらけの左腕と、丸くてかわいらしい色をした錠剤が転がっていた。

 

 ホコリ被った地面には、持ってきた弁当と、新しくてツヤツヤな、丸くて赤くてかわいらしいトマトが転がっていた。